こんにちは。保険代理店サークルの菊地です。

令和6年10月から社会保険適用拡大が行われます。 
要するに、これまで家族の扶養に入っていた短時間労働者が自腹で社会保険料を払う可能性が出てくる、という内容の法改正です。

今回のコラムでは、社会保険適用拡大によって手取り額がいくら減るのか、年収の壁はどう変わるのか、扶養している人と扶養されている人それぞれの影響について詳しく解説します。

社会保険適用拡大で何が起こるのか

現行の社会保険制度は、以下の条件すべてに当てはまる人に加入する義務があります。

①一週間の勤務時間が合計20時間以上ある
②一ヵ月の賃金が88,000円以上ある
③勤務先に雇用される期間が2ヵ月を超える見込みがある
④勤務先の従業員の人数が101人以上いる→令和6年10月から51人以上に変更
⑤学生ではない

※上記5つに当てはまらないパートタイマー・アルバイトでも、一ヵ月あたりの勤務時間・勤務日数がフルタイム正社員の4分の3以上ある人は社会保険の加入義務があります。



令和6年10月からの社会保険適用拡大では、④の従業員数の定義が101人以上から51人以上に変わります。

*出典:政府広報オンライン 社会保険の適用が段階的に拡大! 従業員数51人以上の企業は要チェック


これまで扶養に入っていた人や、国民健康保険・国民年金を自分で支払っていた人が、今回の改正で社会保険に加入すると起こり得るメリットとデメリットは以下の通りです。

【メリット】

  • 各種年金(老齢・障害・遺族)の受け取り額が増える:国民年金に厚生年金が上乗せされる
  • 傷病手当金・出産手当金が受け取れるようになり、国民健康保険より手厚い保障を受けられる
  • 国民健康保険・国民年金に入っていた人は、社会保険に切り替えると保険料が安くなる可能性がある

【デメリット】

  • 扶養から抜けると社会保険料が自腹になるので、その分手取り額が減る
  • 40歳以上で扶養から抜けると、介護保険料の支払い義務があるため負担がさらに大きい
  • 扶養から抜けた人の収入が上がった場合、扶養者(世帯主など)は扶養控除が受けられなくなり、払う税金が増えて手取りが減る恐れがある



具体的な影響について、ケースごとに見ていきましょう。

扶養されている人の手取り額の影響:パート・アルバイトなど

厚生年金保険の被保険者数(条件④の従業員数)が一定数以上、かつ一定期間いる事業所を特定適用事業所と言います。
扶養されている人(被扶養者)の勤務先が今回の改正によって特定適用事業所に該当し、被扶養者が先の①~⑤全ての条件を満たした場合、扶養から抜けて自分で社会保険に加入し、自分で社会保険料を支払うことになります。

社会保険料の料率は各都道府県で異なりますので、ここでは神奈川県の保険料額表を参考に、月の賃金を92,000円と仮定して社会保険料をシミュレーションしてみましょう。

*出典:協会けんぽ 令和6年度保険料額表(令和6年3月分から) 神奈川県

1.標準報酬を調べる

社会保険料は、標準報酬に料率を乗じて計算します。
標準報酬は、毎月の賃金の額が含まれる報酬月額の行にある月額のことです。
本ケースの場合、賃金92,000円は報酬月額83,000円~93,000円の行に該当し、月額88,000円が標準報酬となります。

2.健康保険料を調べる

健康保険料は介護保険料を含むかどうかで料率が変わります。
39歳以下の人は介護保険料がかからないので10.02%、40歳以上の人は介護保険料がかかるので11.62%です。
さらに、実際に賃金から払う保険料は算出した額の半分で済みます。これを労使折半と言います。
よって、本ケースの健康保険料の自己負担額は以下の通りです。(端数は四捨五入されます)

  • 39歳以下の人:4,408.8円
  • 40歳以上の人:5,112.8円


3.厚生年金保険料を調べる

社会保険に加入すると、健康保険料だけでなく年金の保険料も支払う必要があります。

厚生年金保険料の料率は一律で18.300%です。
こちらも労使折半なので、本ケースの厚生年金保険料の自己負担額は8,052円です。

4.賃金から払う社会保険料の合計

本ケースの場合、毎月支払う社会保険料は以下の通りです。(端数は四捨五入済)

  • 39歳以下の人:健康保険4,409円+厚生年金8,052円=12,461円
  • 40歳以上の人:健康保険5,113円+厚生年金8,052円=13,165円


老後の年金はどれくらい増える?

社会保険に加入して厚生年金保険料を支払うと、保険料の額と支払う期間に比例して、将来受け取る老齢年金の額が増えます。
厚生労働省・日本年金機構による年金額のシミュレーションは以下の通りです。

*出典:厚生労働省 社会保険適用拡大特設サイト ガイドブック

扶養している人の手取り額の影響:世帯主など

社会保険適用拡大をきっかけに、働き損を避けるために収入を増やそうと考える被扶養者の方もいるでしょう。
しかし、せっかく被扶養者の収入金額を増やしても、今度は扶養している人(扶養者)が扶養控除や配偶者控除を受けられなくなり、支払う所得税・住民税が高くなって手取り額が減る恐れがあります。

扶養には、社会保険における扶養と、税法における扶養の2つがあります。
2つの違いは被扶養者の年収の上限金額です。被扶養者の年収が一定額を超えると扶養から抜けてしまうことから『年収の壁』と呼ばれています。

まず、社会保険料における年収の壁106万円。これは、先の条件②の月額88,000円×12カ月=1,056,000円が理由です。

次に、税法における年収の壁は以下の通りです。

  • 扶養控除…103万円
  • ひとり親控除…103万円
  • 配偶者控除…103万円
  • 配偶者特別控除…150万円~201万円

被扶養者の年収が上記の額を超えると、扶養者が各種の所得控除を受けられなくなり、課税される所得の額(課税所得金額)が増えてしまいます。
所得税は、課税所得金額が増えるにつれて税率も上がる仕組みのため、支払う税金が高くなって手取り額が減る恐れがあるわけです。

住民税の税率は一律10%ですが、課税所得金額が増えると税額も多くなることには変わりありません。

働き損を避けようとしたら世帯収入が減ってしまった…とならないように、扶養されている人だけでなく扶養している人も注意が必要です。

国民健康保険に入っている人の手取り額の影響

ダブルワークの生活スタイルの人は、どの勤務先でも社会保険に入らずに、国民健康保険・国民年金の保険を払っているケースもあるでしょう。
改正によって複数の勤務先のうち1つでも特定適用事業所に該当し、ご本人が①~⑤全ての条件を満たしていれば、国民健康保険・国民年金から抜けて社会保険に加入することになります。

社会保険料は先に述べたように労使折半ですので、国民健康保険・国民年金の保険よりも安くなる可能性があります。
月の賃金を92,000円と仮定した先のケースの場合、一ヵ月の社会保険料は以下の通りです。(端数は四捨五入済)

  • 39歳以下の人:健康保険料4,409円+厚生年金保険料8,052円=12,461円
  • 40歳以上の人:健康保険料5,113円+厚生年金保険料8,052円=13,165円


対して、国民健康保険・国民年金の一ヵ月の保険料は以下の通りです。

  • 39歳以下の人:健康保険料3,374円+国民年金保険料16,980円=20,354円
  • 40歳以上の人:健康保険料4,347円+国民年金保険料16,980円=21,327円


本ケースでは社会保険料のほうが、39歳以下なら7,893円、40歳以上なら8,162円安く済みます。

社会保険に入ると、将来受け取る年金額に厚生年金分が上乗せされたり、傷病手当金・出産手当金が受け取れたり、より手厚い保障が受けられます。
ただし、社会保険料は標準報酬に税率を乗じて計算しますので、賃金が高い人は国民健康保険・国民年金の保険料よりも高くなる可能性があります。
受けられる保障内容や将来の年金額を踏まえて、これからの働き方を見直すと良いでしょう。

*出典:日本年金機構 国民年金保険料の金額(令和6年度 1カ月あたり16,980円)
*出典:横浜市 令和6年度保険料の料率等について 保険料簡易試算表(エクセル:399KB)

最後に

社会保険適用拡大は過去にも従業員数の見直しが行われた改正で、2016年に501人以上→2022年に101人以上→今年の改正で従業員数51人以上と縮小の一途をたどっています。
厚生労働省における社会保険適用拡大の目的は短時間労働者の老後の貧困を減らすためとされていますが、実際には少子高齢化のいま、働いて社会保険料を納める現役世代が減る一方なので、現在足りない年金・医療・介護保険料を多く集めるための政策と思われます。

iDeCoやNISAの制度がある今は、国に保険料を払うよりも自分で投資をしたい考えの人も多いでしょうし、老後の年金より先に今の生活にお金が必要な人もいるでしょう。
社会保険に入ると保障が手厚くなるメリットはありますが、扶養から外れると負担が大きくなるのでは、国民のニーズを得るのは難しいのではと感じます。

サークルでは、これから働き方を変える予定がある方向けにライフプラン作成サービスを行っております。
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